第3章
朝山新一の性教育スライドに込めたる思い
宇野 賀津子

はじめに
朝山の性教育に対する考えを紹介する原稿内容を考えていた時、スライドを整理する中で、「前思春期の性教育:小学校高学年から中学生まで《基礎編》」を見つけた。これはスライド・シリーズJASE No.1となっていて、筆者の本棚にも保管されていた。今回朝山のスライドを整理する中で、朝山が言った「図は科学的に正確で、美しい図、わかりやすい図でないといけない」といったこだわりと、1枚1枚のスライドに込めたこだわりを、改めて確認した。
朝山の教え子であり後輩として発生学の分野に進んだ筆者は、何度も朝山の性教育の講義を聞いた。「これはとても大事な事だから」と、大阪市立大学の生物学科で休講になったときなど、スライド一式を持ってきて、生物学科の学生に話をしてくれた。また、筆者が京都大学の大学院に進んでからは、朝山の講演会が、京都・大阪であるときには案内が届いた。学生だということで、参加費を払った覚えがない。それにもかかわらず、その場にいた講演者や大御所の先生方を朝山は紹介してくれた。
個人的には、朝山の性教育に対する思いを一番に聞いたのではと自負している。
今、改めて1974年に朝山が出したスライドを見てみると、1枚1枚に朝山のこだわりとその時に聞いた説明を思い出す。その思いの一部でも、現場で性教育に関わろうとする方々の参考になればと、本稿で紹介することとした。
このスライドは1974年に朝山が作ったものをまとめ、日本性教育協会(以下JASE)から出版されたものである。ここで紹介するスライド枚数は限定的だが、(選択にあたっては)朝山のこだわりのスライドが選択されている。本稿の四角囲みの部分は朝山が書いたスライドの説明で、その他は、スライドの解説資料や最終スライドに至る前のイラストをもとに、朝山のこだわりについて筆者が付け加えた解説である。
※なお、本文中のスライド①~㉑は『前思春期の性教育』から、イラスト(a)~(j)はその他の朝山のスライドアーカイブから引用した。

図3-1 「現代性教育研究」1974年季刊10号の巻頭折り込み
朝山はこのスライドの7大特色として、以下のように書いている。
1、 従来の純潔的発想を排し、まず科学的事実を提示する
2、 生理面から始まり心理・社会面へのアプローチをはかる
3、 教師と児童・生徒間の対話を中心に学習を進める
4、 科学的な知識を、美的・情緒的な感動にまで高める
5、 男女共学の場で異性の生理・心理を学び性差を考える
6、 教師・学校・地域の実情に応じて1枚からでも使用できる
7、 小学生だけでなく、中学生を対象にしても使用できる
1. ヒトの一生 ~胎児期から老年期まで~
これは“ある家族”のモデルですが、また人間の一生を示しています。まず、子どもたちに「二度とくり返しのきかない人生をどう生きるか」を考えさせ、「いま自分が一生のなかのどの位置を生きているのか」を認識させるのが狙いなのです。子どもたちに『前思春期』という時期を、視覚的に自分のものとしてとらえさせたうえで、これからの話をすすめていくわけです。
朝山はスライド①に行き着くまでにいろいろな図を書いている。イラスト(a)と(b)もその一つかと思われる。いかに、人の一生を表すかの工夫が見て取れる。さらに、スライド①のお母さんはお腹に赤ちゃんがいる図となっている。従ってこの図では、胎児期、乳児期、幼児期、少年期、青年期、壮年期、老年期を網羅している。スライドの説明では、自分の今と将来を考えるような会話を導いていくことを推奨している。

イラスト(a)

イラスト(b)

スライド①
2. からだの成長 ~自分のからだを観察しよう~
前思春期(少年期)の男女のからだの成長の様子を、幼年期と青年期のそれと比較対照し、その特徴を観察させるのがこのスライドのねらいです。
少年期では、男の子より女の子のほうがいくぶん背が高いこと、第二次性徴がはっきりしてくることなどを子どもたちに認識させます。そして、その過程がふつうの健康な成長であること、だれにでも起こる変化であることを教えます。
朝山はスライド②③で、子どもたちにこれからの自分自身のからだの変化を感じてほしいと言っている。さらにその仕組みが脳下垂体の働きと作用があること、からだの変化を科学的に理解してほしいと願っていると思われる。

スライド②
3. 思春期のからだ ~その成長と変化はなぜおこるか~
②で説明したようなからだの成長や変化がなぜおこるか、その仕組みを説明し、自分のからだを科学的な観点から理解できるよう指導するスライドです。
その中心テーマは、思春期におけるホルモンの働きとからだの変化。男女それぞれのホルモン系を示し、男性ホルモン、女性ホルモンが、自分たちのからだに、いつごろ(9〜15歳)どんな変化を起こすか具体的に説明します。
脳下垂体ホルモンが精巣に働きかけて産生され男性ホルモンが第二次性徴の発現や性欲に大きな働きをする。一方、女性の脳下垂体でできる性腺刺激ホルモンは、濾胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、黄体刺激ホルモンの3種があり、その中でも濾胞刺激ホルモンが卵巣を刺激すると、卵胞ホルモンと呼ばれる、いわゆる女性ホルモンが作られ、女性の第二次性徴発現に大きく作用する。朝山は、スライド②と③で、子どもたちの年齢・発達・興味に応じて、教師が自分の言葉で説明を加えることを願っている。

スライド③
4. 男子のからだ ~精子は精巣でつくられる~
だんだん男らしくなっていく、男子のからだの特色を理解させることが目的です。
ペニス、いんのうなど目立つ部分だけではなく、模式図であらわした内性器の役割についても科学的に説明します。また、精巣の細精管の拡大図で、精子のできる過程を示し、精通現象、夢精などを科学的興味に結びつけていくのが狙いです。
スライド④の解説で、朝山は精子の説明から始めると、子どもたちの興味が集まるのではないかと提案している。たとえば、精子は長さが6ミクロンしかないことなどから話し始めてはどうかと。精子の頭部の先体部分が、受精の際に卵の表面から出る酵素により分解され、同時に先体の中にしまわれていた酵素が卵の表面を溶かして、精子が卵内に入るのを助けること。そして受精が成立するといった説明である。また、青年期に入った男性は、毎日精子を7千万から1億個も作っていることや、男性の内部性器について説明したうえで、毎日作られている精子が精巣上体と輸精管にたまると、脊髄反射で尿道を通って体外に排出(射精)されることも、小学校上級生では知っておいてよいことだと書いている。

スライド④
5. 女子のからだ ~赤ちゃんの生まれる場所はどこ?~
ここでは、女子のからだの仕組を子どもたちに知らせます。男子の場合と同じく、内性器の役割を科学的に教えていくのです。
子宮の拡大図をのせたのは、卵巣、卵管、子宮、膣それぞれの役割をくわしく説明し、それが赤ちゃんを育て、生むのに必要な、女性だけにある大切な器官であることを認識させるためです。卵巣のなかで卵細胞が育つ過程についても、説明します。
卵巣の働きと排卵について説明している。卵細胞のもととなる始原生殖細胞は10歳女子では2万個ぐらいあり、これは卵巣内に入ると、発育卵細胞となる。思春期になるとその発育卵胞のうちの1個がだいたい月毎に1個ずつ成長し、成熟卵胞となり排卵される。卵の成長は脳下垂体から出される“卵胞刺激ホルモン”(FSH)の働きによることを説明できればと考えている。排卵後の組織は黄体となり黄体ホルモンを出す。イラスト(C)とスライド⑥と併せて説明できればとよいと考えている。
女性の卵のもととなる始原生殖細胞は、生まれた時にすでに卵巣内にできているので、排卵された卵子は20歳では20年、40歳では40年経過している。35歳を過ぎれば、卵の老化が問題になってくる。出産はできるだけ30歳までにするのが望ましいと朝山は語っていた。

スライド⑤
6. 排卵と月経 ~メンスはどうしておこるか~
排卵と月経のおこる関係と、その生理的(ホルモン作用の)仕組を一つの図にまとめ、そのプロセスを子どもにわからせることを目的としたスライドです。
これについては難しい説明をするより、月経は健康な女性ならだれでも起こる現象で、自分たちのお母さんやおねえさんにもあること、出血があってもおどろくことはないこと、むしろ健全な発育のしるしであることを教えます。
排卵と月経、それを裏付ける生理的ホルモンの関係を説明している。イラスト(c)(d)、スライド⑥も年齢により説明を省略すればよいと朝山は語っていた。例えば小学校5〜6年生には、月経が脳下垂体ホルモンの働きによる子宮内膜の規則的な変化によるものであると説明すればよいと言っている。またその間隔が28日型の人もいれば、そうでもない人もいてまちまちであり、また月により変化するのは普通であること。なればこそ、手帳に毎月記録する習慣をつけようと推奨している。

イラスト(c)

イラスト(d)

スライド⑥
7. 受精と着床 〜赤ちゃんができる仕組み〜
ここでは「赤ちゃんができる仕組」として、受精と着床について説明します。
図に示された球体とオタマジャクシが何であるかを子どもたちに質問し、それが卵と精子であることを理解させます。そして、このふたつが結びつくことを受精といい、受精卵、卵の発生(分割)、着床……などについて、順々に科学的な説明をくわえていきます。
女性の膣内に射精された精子は、その鞭毛を動かして膣から子宮・卵管へとすすんでいく。精子が子宮卵管へとすすんでいけるのは、子宮環境の変化と連動していて、それは排卵日前から排卵日の限られた時間であることを説明している。言い換えれば、あなたはいくつかの条件が整った時、精子と卵子が出会うことができて、さらにお母さんの体に着床することができて生まれてきたのだと。

イラスト(e)

スライド⑦
8. 母体と胎児 ~母と子はへその緒で連絡している~
子宮内膜に着床した受精卵は、やがて胎児に成長していきます。その赤ちゃんと、お母さんのつながりがテーマです。
羊水のなかに浮んで成長する胎児は、母体とへその緒でつながっていること。しかし、それは栄養物とか酸素などの物質交換のためで、血のつながり(直接的な血液の交流)はないということ。赤ちゃんの血液や血管系は、ぜんぶ自力でつくられることを強調します。
朝山が、ここで強調していたのは、胎児と母体がそれぞれ独立した関係にあるということである。“血のつながった母子”という言葉があるがそれは間違いで“子どもは、栄養や酸素は母からもらうが、血液も含め、自分で自分のからだを作って生まれてくる”と何度も強調した。スライド⑧の右端の図は胎盤の独立性を強調した、朝山こだわりの図である。

スライド⑧
9. 胎児の成長 ~赤ちゃんが大きくなっていく過程~
お母さんのからだのなかで、赤ちゃんがどんなふうに大きくなっていくかを示したものです。図の左から、それぞれ妊娠2か月、4か月、7か月、9か月の状態を示しています。
ここでは赤ちゃんの成長とともに、母体も変化していくことを説明。こんなに大きくなった赤ちゃんが、いったいどうやって外へでてくるのか、子どもたちに考えさせます。
お母さんのからだの中で、赤ちゃんがどんなふうに大きくなっていくかを示したスライドである。2か月:頭とからだの区別が分かり45日目ごろから、男女を特徴づける基本的な外部性器構造が現れる、4か月:胎盤が完成し胎盤からの栄養補給・物質交換が盛んになる。7か月:男子の腹腔内にある精巣が陰嚢の中に降下し始める。朝山はこの時期の早産では保育器で育てるのは無理と書いている(現在では可能となった)。9か月:胎児のからだ全体に皮下脂肪がよくつき、ふっくらとしたからだつき。性器が発育し、皮膚のしわも消えてくる。このスライドにも科学的正確さへのこだわりを見ることができる。

スライド⑨
10. 分娩のすすみ方 ~赤ちゃんがおなかから出る順序~
赤ちゃん誕生のドラマ、分娩のすすみ方について説明します。
その過程について科学的に説明するのはもちろんですが、陣痛の苦しみ、父親の思いやりなどにもふれることが大切です。さらに、お産のとき、母親が我が子を産むときどんな気持ちであったかを話し合いたいものです。女子には妊娠と分娩は健康な女性には自然なことであることを知らせ不必要な恐怖感を与えぬよう配慮します。
分娩のプロセスは、開口期、娩出期、後産期に分けられることを説明している。

スライド⑩
11. 楽しい家庭 ~大切にしてくれる人~
たとえ客観的、科学的事実であっても、分娩の経過などははじめて知った子どもにとっては、強いショックとなることがあります。
このスライドは、赤ちゃんの産まれたあとの家族の喜びをえがいて、その緊張を発散させ、心理的な安定にみちびくのが大きな狙いです。性教育では、事実をはなすことが大切ですが、たえず子どもの反応に注意して、情緒的な感動に導いてやることが大事です。
朝山は、出産経過については、初めて知った子どもにとって、強いショックとなる場合もあると考え、その緊張を発散させて心理的安定に導く工夫が大切だとして、最終的にはスライド⑪で、赤ちゃんが生まれた後の、家族の喜びを表している。その過程でイラスト(f)のような図も作成していた。

スライド⑪

イラスト(f)
12. 遺伝のはなし ~私はだれに似たのだろう~
遺伝について、子どもたちの関心を呼び起こすためのスライドです。図の左半分は、受精によって父母の遺伝子が子どものなかでひとつの新しい遺伝組織をつくることを示しています。
その科学的な説明とともに、子どもたちひとりひとりが、この世にふたりとない、まったく新しい遺伝素質をもった、かけがえのない個人であることに気づかせるのがこのスライドの狙いです。
子どもは両親のどちらに似ているかから話を始めるように、この図は描かれている。左半分で、受精によって父母の遺伝子が子どもの中で一つの新しい遺伝組成を作ることを示している。スライドの色があせているが、父側の染色体は青色、母親の染色体は赤色で表され、子どものからだは“天下に二人とない人”に作られていくと説明している。

スライド⑫
13. 生きもののふえ方 ~水中から陸上へ~
⑦〜⑫で、発生や誕生について説明しますが、これは「では、どうして受精がおこるか? 受精が行なわれるまで、どんなことがあるか知りたい」といったつっこんだ質問があったときに使用するスライドです。
まず、無性生殖を説明。それから水中動物の生殖、陸上動物の生殖……と、生物の進化によって、生殖の仕方もかわってきたことを理解させます。
この図には、生き物のふえ方(生殖)が網羅的に描かれている。植物と動物、無性生殖をするものから、水中に棲む動物の受精の方法を魚類、両生類と示している。さらに、水中から陸上への進化の過程で、受精の方法も変わってきたことを示している。このイラストは何度も描き直されていて(イラスト(g)(h)など)、生物学者としての朝山のこだわりを感じることができる。人間の場合は?という質問が出れば、「人間も哺乳動物で、その仕組みから逃がれるわけにはいかない。けれど、人間の場合、シカやイヌとはちがって男性と女性が、おたがいに相手を好ましい人と判断し、愛しあい家庭をつくって子どもをつくる。」と話し合う必要を強調している。

イラスト(g)

イラスト(h)

スライド⑬
14. ヒトの場合 ~生殖(性交)のしくみ~
ヒトの場合の生殖の仕方を説明するスライドです。これも、子どもたちが⑬だけではよくわからない、さらに具体的な説明を望む雰囲気を感じとったときに使用するものです。
そんな場合には、生殖一般を解説し、陸上の生物が生殖細胞の受け渡しをこのような仕組で行なうこと。それは自然なことで決していやらしいことではない、などとサラリとのべればいいのです。
このスライドは、必ずしも全部の生徒に見せる必要がないと書かれていた。「もっと知りたいという要求があった場合、そういう生徒だけ集めて見せて説明してもいいのです。」と。中学生の場合には「『水中から陸へ上がった動物は、子孫を残すために、特別な構造の性器が発達した。オスはメスのからだの中に精子を運び入れるペニス、メスはそれを受け入れる管状の膣と、受精した卵の発育を守り育てる袋状の子宮(ウテルス)が発達し、生殖が確実になる仕組みが発達した。その手段としてペニスが膣のなかに挿入され、射精される性交が必要になった』と、ズバリ話すとよいのです。」と書かれている。朝山の図も順次訂正され、子宮内の胎児の図にも、最終版(スライド⑭)に見るように、こだわりを推察することができる。

イラスト(i)

スライド⑭
なお、膣にペニスが挿入された図は、ドイツの教科書を写したスライドが、朝山コレクションにあったので(図3-2)、これにヒントを得たと推察される。この本は、筆者が1971年にドイツに交換留学で行った際、ホストファミリーの小学校高学年の息子さんの本棚に並んでいたものを、譲り受けて持ち帰ったものである。この時ドイツの幾つかの性教育の本を持ち帰って、朝山に見せたらとても喜ばれた。今回朝山のスライドを整理していて、これらの本のいくつかの図がスライドにして保管されていたことを、その時に確認した。それらの図の一部が、朝山のスライドの参考となったのは間違いない。

図3-2
Joachim Brauer, Gerhard Kapitzke, Karl Horst Wrage, 1969, Junge, Mӓdchen, Mann und Frau,pp38-39 (8歳から13歳向け)
15. 清潔にしよう ~心身ともに健康な人に~
性教育には《素質の喚発》《訓練(しつけ)》《学習》の三つの要素があります。スライドは、これから《訓練(しつけ)》についてふれていきます。
これは、からだを清潔にすることの大切さを教えるスライドです。“清潔”とは、個人の健康を保つための《学習》であると同時に、社会生活のなかで他人への配慮が大切であること(しつけ)を理解させます。
朝山は、性教育の3つの要素として、1. 素質の開発、2. 学習、3. しつけ、をあげている。からだを清潔にするということは、個人の健康を育てるための学習であると同時に、社会生活の中での大切な訓練(しつけ)でもあると、解説に書いている。

スライド⑮
16. 仲よく助けあおう ~異性間の助けあい~
学校における異性間の助け合いについて考えていくスライドです。
前思春期の男子は、性の意識と異性への関心のめばえを素直に表現できず、同年配の女子にかえって手荒いふるまいをすることがよくあります。そういう気持ちが生じることを認めたうえで、それは他人にいやな思いをさせるよくないことだ、お互いに協力して明るく楽しい学校生活を送れるよう指導します。
前思春期に近づくと性の意識と、異性への関心がめばえるが、それを素直に表現できず、同年配の女子に手荒なふるまいをすることがある。朝山は、このような時期・心理についてよく説いて聞かせ、異性を区別なく尊重する社会習慣やエチケットを育てることも、前思春期の子どもに対する大切な性教育の一つだと述べている。

スライド⑯
17. 協力しあおう ~性差と協力~
男性と女性は人間としての権利は平等ですが、からだの仕組から力の強さや心のはたらきに違いがあります。それをよく知ったうえで、お互いに協力して楽しい生活を送るためには男性と女性、おとなと子どもの協力が必要です。
同時に、このスライドでは、既成の“男らしさ・女らしさ”を押しつけずに、相互の尊重といたわりの中で、役割がきまっていくことを対話を通して理解させます。
朝山はここで、「女性は筋力では全体として男性に劣っていますが、知的能力では男性と女性それぞれに質的な特色はあっても、むかしから理由なく信じこまれているような“女性劣等” “男性優位”の考えは心理学の調査研究で誤っていることが、だんだん明らかにされてきています」と、書いている。そして「『それぞれの個人の特色・資質を伸ばし、社会の中の“男女差別”をなくし、能力・個性にもとづいておたがいに協力することがこれからのよい社会をつくるのに大切なのだ』ということを、子どもたちと討議し話し合っていただきたい」と述べている。これは1974年の記述であることを考えると、先進的で興味深い。

スライド⑰
18. やさしい心づかい ~異性・他人に対する理解~
性教育の要点として、“異性・他人に対する理解とやさしい配慮”を育てる訓練を忘れてはなりません。このスライドは、社会のなかでのいたわりあいの大切さについて対話を進めます。
そのいたわりは、また、人間に対してだけではなく、小さな動物や花や木にまで広げたいものです。それが結婚してからの異性へのやさしい心づかいと思いやりの基礎をつくるのです。
性教育の要点には、異性・他人に対する理解とやさしい配慮を育てる訓練も含まれるとして、このようなスライドも用意されている。

スライド⑱
19. 被害防止 ~育てることと防ぐこと~
性教育には“育てること”と“防ぐこと”の二つの面があります。小学校高学年になると、夜遅くひとり歩きする機会なども増えますが、女子だけでなく男子にいたずらするおとなもいるのです。このスライドは、それを図であらわし、子どもたちに警戒心の必要なことを話すためのものです。
適切な判断力を養うことは、社会生活を送る上で大切な訓練でもあります。
解説には、「“人間不信”をうえつけることではなく、『世のなかに“いい人”はたくさんいるけれど、なかには“トンデモナイ人”もいる』ことを理解させておく必要がある」と述べている。

スライド⑲
20. 異性に対する心の成長 ~年齢に応じた心理の変化~
このスライドは、年齢に応じた異性間の心理の変化を示しています。無関心・関心・反撥……と成長に応じて、異性への興味のもちかたがかわってくることを説明します。とくに、男子と女子の遊び方が別々になり男女がおたがいに張りあう10〜12歳の段階での、協力の大切さを強調します。また、前思春期には、女子のほうが早く異性への関心にめざめることにもふれます。
朝山はこのような図が何を表しているか、生徒に問いかけながら話をすすめていくことがポイントだと紹介している。

イラスト(j)

スライド⑲
21. よいおとなになろう
最後に、前思春期を経て成長していく子どもたちと“理想の人間像”について、話し合いましょう。“理想の人間像”というと、抽象的で、具体的には論議が別れますが、教師には身近な教育基本法第一条“教育の目的”に示されている目標なら、誰にも異存はないはずです。子どもたちとともに夢を語り、多様で豊かな価値を選択し創造できる“社会的人格”について考えましょう。
朝山は「これまでの日本の教育には、性が除外されてきました。性のない人間はありません。性の知恵なしには人間の知恵は育ちません。そこで教育の中に性をとりもどすことが必要です。」と強調している。スライド㉑を使って、理想の人間のイメージについて子どもたちとともに考えていきましょうと呼びかけている。

スライド㉑
筆者は、大学院生時代、朝山から、多方面から勉強しろ、ドクターを取れ、性科学をやるのはそれからでも遅くない!とよく言われた。また論文や発表で使用する図は科学的に正確で、美しい図、分かりやすい図でないといけないこと、そして自分の言葉で語れと教えられた。そしてマニュアルに頼るなと。
これらのスライドは枚数も限定的ではあるが、1枚1枚のスライドには非常に多くの情報が盛り込まれているし、朝山の思いが詰まっている。教える側には、自分の言葉で、生徒の成長に従って、対話をしながら話を進めていくことが望まれている。
今回、このスライドを整理してみて、改めて朝山の性教育に対する深い思いを感じた。この中の多くの図は、朝山の講演の中で筆者自身、何度も見たものも含まれる。伝えるテーマは同じでも、いろいろなバージョンの図があること、何度も工夫しながらいろいろな図が描かれたことが分かる。特に生殖器官や出産の図などは、世界中の生物学・性教育の教科書や科学書などの図をスライドにして保存し、さらにそれに改良を加えた過程がうかがえるものも多い。今、このスライド集を読み返してみて、50年を経た現在でも十分通用すると思った次第である。
また、朝山が書き残した、性教育プログラムが残っていた。最後に付しておくので、朝山の性教育に対する考えを理解する一助としてほしい。
【引用文献】
・朝山新一, 1974, 「JASEスライド・シリーズ①前思春期の性教育ー小学校高学年から中学生まで《基礎編》」, 財団法人日本性教育協会.
・朝山新一, 1974, 「JASEスライド・シリーズNo.1 前思春期の性教育ー小学校高学年から中学生までー(基礎編)」,『現代性教育研究』季刊10号, pp2-7, 小学館.
・Joachim Brauer, Gerhard Kapitzke, Karl Horst Wrage, 1969, Junge, Mӓdchen, Mann und Frau, Gütersloher Verlagshaus Gerd Mohn, Gütersloh.
【編集付記】
スライド①~㉑を描かれたいけうらかつお様、およびイラスト(a)~(j)を描かれたイラストレーターに掲載のご了承を得るべく連絡先を調べましたが、かないませんでした。本稿をお読みになられ、お気づきの方がいらっしゃいましたら、JASE事務局までご一報いただければ幸いです。
