
資料解説
1974年「第1回青少年の性行動全国調査」調査票の構想と作成
片瀬 一男
以下に掲げた4つの資料のうち3つ(AからC)は、いずれも今回の朝山資料から見つかったものであり、1974年に日本性教育協会が実施した「第1回青少年の性行動全国調査」の調査票が作成された過程を示す資料として収録した。それぞれが作成された正確な日時は不明ではあるが、日本性教育協会が設立された1972年から調査が実施された1974年の間であることは間違いがないだろう。
まず資料Aは「性行動調査において考慮しなければならない点」(原版はB4判6枚にわたる手書きのメモ)は、調査票の作成に先立って調査委員会(1)によって作成されたものと考えられる。その内容は「1.個人的なもの」「2.個人をとりまくもの」に分けられている。このうち、前者「1.個人的なもの」では、性の生理的側面からはじめ、「フリー・セックス」「乱交パーティ」「野球拳」などの当時のメディアで問題になった青少年の性的逸脱に関わる項目が入っている。また後者「2.個人をとりまくもの」では、「男女共学」「純潔教育」といった文部行政にかかわる項目や、当時の経済状況(高度経済成長の飽和)、さらに「ポルノグラフィ」「同伴喫茶」といった風俗問題など、幅広い項目があげられている。これらの項目のすべてが実際の調査項目に取り入れられたわけではないが、当時の調査委員会の関心の広さを思わせる。また、朝山に関して言えば、2章でも述べたように、当時の文部省の「純潔教育」の効果についても、またメディアによる青少年の性に関する過剰報道(2)にも批判的で、いずれも青少年の性行動の実証調査によって科学的に検証されねばならないと考えていたことは特筆されてよいだろう。
これに対して、資料B(手書きの草稿)は資料Aを受けて作成された調査票草稿、Cはその初校と思われる。これに対して、今回作成した資料Dは、この2つの調査票の草稿の対照表で、いずれも書き込まれた修正を反映させて入力してある。最終的な調査票は『青少年の性行動』(日本性教育協会 1975: 62-77)に収録されているので、それを参照されたい(なお、この第1回調査の段階では、調査対象校は都市部だけで、対象者も高校生と大学生に限られていた)。ただし、資料C(初校)の問17は父親(養父母)の職業は基本的に当時の総務省の国勢調査で用いられた職業分類が使用されているが(( )内の職業の例示は省略)、この初校では青字で大きく×が付いており、最終的な調査票の選択肢は、「1 会社員 2 公務員 3 自営業 4 農林漁業 5 自由業 6その他( )」となっている(日本性教育協会 1975: 64)が、校正前のものを入力している。これは学校現場では子どもに親の職業を聞くことが一般にタブーとされることが多い(この時期はいわゆる「被差別部落」による職業差別があったこと、また最近では個人情報の保護)ので、初校の段階で消されたものと思われる。ただ、初校の段階では親の職業を尋ねて、青少年の生育環境や階層差まで明らかにしようとしたことを記録するため、当初の初校を記載した。さらに設問の順番は資料Aの草稿に合わせているので、設問の番号は必ずしも初校とは一致していない。
さらにこの資料Dの対照表の第1列には、調査項目ごとに見出しを付した。この表を見れば、両者には設問の文言や選択肢に若干の相違があるものの、最も大きな違いは資料Cの初校において、問47AからDで性教育(受けた経験の有無・学校段階・その内容)が付け加えられたことであろう。また、初校の問35A~Eの性的被害に関する設問も、草稿(問33)に比べると、かなり詳細になっている。なお、再校の問37では「キス欲求」と「キス経験」が混同されて質問されているが、『青少年の性行動』(日本性教育協会 1975)では修正されている。
ただし、この時点で、2023年度に第9回調査が行われた同調査の骨格部分は基本的にでき上がっていたと考えられる。その後の「性行動調査」の展開については(片瀬 2023)を参照されたいが、第2回調査(1981年)、第3回調査(1987年)では発達心理学者の間宮武が代表者を務めていたこともあり、性の年齢的変化(発達)や性差に焦点が当てられた。これに対して、第4回調査(1993年)以降は計量社会学者の原純輔(横浜国立大学・東京都立大学を経て東北大学名誉教授)ら社会学者がリードしてきたので、設問項目にもコミュニケーション・メディア(携帯電話やスマートホン、SNSなど)の影響が入れられ、性教育の内容や性被害の項目もさらに拡充されている(3)。
【注釈】
(1) 委員会は朝山新一(当時・大阪市立大学名誉教授)を代表とし、黒川義和(同・大阪府科学教育センター研究調査部主幹)、篠崎信男(同・厚生省人口問題研所人口政策部長)、田能村祐麒(同・東京都新宿区教育委員会指導室長)、間宮武(同・横浜国立大学教授)、松村博雄(同・医師・医事評論家)からなっていた。
(2) メディアによって青少年の性的逸脱が過剰に報道されることで、青少年の性行動に対する統制が強化(たとえば「深夜徘徊」「不純異性交遊」といった虞犯の摘発)されることで、結果的に統計上は逸脱行動の件数が増加し、さらにその増加がメディアによって過剰に報道されることで「モラル・パニック」が再帰的・循環的に煽り立てられることを「逸脱増幅過程」という(片瀬 2022)。こうした青少年問題の「社会的構築」は、この時代に限られるものではなく、昭和初期の地方の高等女学校生の性的逸脱や、1990年代の「援助交際」に関する報道についても見られた(片瀬 2024)。
(3) さらに過去のデータを用いて多変量解析なども使った、より専門的な分析をした成果としては(林 2021, 林・石川・加藤 2022)などを参照。
【文献】
林雄亮編, 2018,『青少年の性行動はどう変わってきたか―全国調査にみる40年間』ミネルヴァ書房.
――――・石川由香里・加藤秀一編, 2022,『若者の性の現在地-青少年の性行動全国調査と複合的アプローチから考える』 勁草書房.
片瀬一男, 2022,「「生命の安全教育」の社会学―すべてはデュルケームに始まる」『たのしい体育・スポーツ』325: 58-63.
――――, 2023,「「青少年の性行動全国調査」の展開-生理学・心理学的研究から社会学的研究へ」『社会学研究』108: 1-3.
――――, 2024,「少女たちの性的逸脱──その社会的構築の系譜──昭和初期「米沢高等女学校事件」の顛末まで」『東北学院大学データサイエンス研究所論集』1: 19-43.
日本性教育協会, 1975,『青少年の性行動-わが国の高校生・大学生に関する調査報告』小学館.



